不動産投資分析基礎講座

目次

キャッシュフロー・ツリーて何?

   賃貸アパート経営の出発点は「投資判断」にあるといえます。新築の場合であれ、リフォームの場合であれ「投資」という側面から分析する必要があります。その際、出発点となるのが「キャッシュフローツリー」です。キャッシュフロー・ツリーとは賃貸アパート経営において、「どれだけのお金が入り」「どのような損失があり」「どれだけのコストがかかり」「借り入れの返済をする」と、「どれだけのキャッシュ(現金)が残ったか」お金の流れを表すものです。そして、これらの投資指標は「リスクを計る物差し」となり、不動産投資による破綻を防ぐ安全弁、羅針盤の役割を果たしてくれます。では、その中身について解説します。

(1) キャッシュフロー・ツリーの構造

キャッシュフロー・ツリーの構造は次のようになっています。

 総潜在賃料収入     (PRI)

+△賃料差異

△空室損

△賃料未回収損                        

⑤   実効賃料収入(➀+-②-③-④)  (ERI)

 その他の収入                        

⑦ 総営業収入(⑤+⑥)     (GOI)

△運営コスト                            

⑨ 営業純利益(⑦-⑧)     (NOI)

△年間借入金返済(ADS)       

⑪  キャッシュフロー(税引前)(⑨-⑩)(CF)

総潜在賃料収入(PRI)

この賃料で募集できると想定した賃料で稼動率100%の賃料合計です。たとえば、賃料10万円の部屋が10世帯の場合、月間100万円、年間1,200万円の総潜在賃料収入があるといいます。

+△賃料差異

賃料の合計を100万円で査定して募集したけれど、実際には95万円でしか決まらなかった場合、この5万円の賃料差異を「未達成損」といいます。逆に、時間がかかってもいいから想定よりも高い家賃で募集して105万円で決まった場合、この5万円を「上積み差異」といいます。

△空室損

入居者が退去して、次ぎの入居者が決まるまでの空室による賃料収入の損失分です。

△賃料未回収損

賃料の滞納により回収出来ない賃料賃料未回収損です。入居促進のために行うフリーレントも賃料未回収損に含まれます。

実効賃料収入(➀+-②-③-④)(ERI)

➀総潜在賃料収入から②賃料差異③空室損④賃料未回収損を引いたものが実効賃料収入」です。

⑥その他の収入

その物件に関連して、オーナーが賃料以外に得る収入です。たとえば、(1)駐車場収入、(2)自動販売機収入、(3)看板収入等があります。

総営業収入(⑤+⑥)(GOI)

⑤実効賃料収入⑥その他の収入をたしたものが「総営業収入」です。

⑧△運営コスト

物件の運営に必要な共用電気代、修繕費、定期設備点検管理費用、管理会社に支払う管理料、固定資産税、保険料等のすべての経費です。

営業純利益(⑦-⑧)(NOI)

⑦総営業収入から⑧運営コストを引いたものが営業純利益」です。年間の手取り賃料収入で「ネット収入」、「実質収入」ともいいます。物件の収益性は「NOI」で計ることができるので一番重要な指標です。

⑩年間借入金返済(ADS)

借入金の年間に返済する金額をいいます。借入金年間返済額は「借入金額」「金利」「返済年数」で決まります。

⑪キャッシュフロー(税引前)(⑨-⑩)(CF)

⑨営業純利益から⑩年間借入金返済を引くと「キャッシュフロー(税引前)」がでます。

【 まとめ】

① 賃料の査定から始まって、年間のキャッシュフローまでのお金の流れを把握し、各項目を予測・計算し収支計画を立てることが大切です。

② キャシュフローツリーは⑨の営業純利益(NOI)までは物件により決まり、オーナーによって変わりません。それに対して、⑩の年間借入金返済から⑪キャッシュフローまではオーナーによって変わります。自己資金の多寡」「ローンの額」「金利」「返済年数」により年間借入金返済が変わってきます。

不動産投資指標にはどんなものがあるの?

「この物件は利回り10%だからいい物件だ」とか「利回りが5%しかない」などと「利回り」という言葉を使います。利回りといっても色々な利回りがあります。それぞれの利回りの中身について見ていきましょう。

(1) 表面利回り・NOI利回り

物件Aを例に解説します。条件は下記のとおりとします。

                (物件A)

購入総コスト             1億円

自己資金       1,000万円

借入金          9,000万円

ローン条件                      金利2%

返済期間30年

総潜在賃料収入       1,000万円

営業純利益(NOI)率      70%

物件Aのキャッシュフロー・ツリーは次のようになります。

           (物件Aの収支)

総潜在賃料収入      1,000万円

営業純利益(NOI)     700万円

年間借入金返済     △ 400万円

キャッシュフロー    300万円

「表面利回り」

想定する家賃収入の最大値、満室の場合の総潜在賃料収入購入総コストで割ったものです。

物件Aの場合の表面利回り

表面利回り

=総潜在賃料収入÷総購入コスト

=1,000万円 ÷   1億円

10%になります。

「NOI利回り」

想定する家賃収入の最大値、総潜在賃料収入から空室損失滞納家賃未回収分運営費等を控除した営業純利益(NOI)購入総コストで割ったものです。別名「実質利回り」ともいいます。

物件Aの場合のNOI利回り

NOI利回り

営業純利益(NOI)÷総購入コスト

=700円 ÷ 1億円

7% になります。

 賃貸アパート、マンションでは「空室損失」や「運営コスト」等の控除額は「総潜在賃料収入」の20~30%あります。つまり、総潜在賃料収入に対するNOI率は70~80%ということになります。

【 まとめ】

①  賃貸アパート、マンションの入居募集において現在の入居者が退去したら現在の家賃では入居が決まらない場合がよくあります。不動産投資において、その物件の現在の正しい賃料を把握することは重要です。

②  また、物件により空室損や運営コストが異なります。表面利回りが高くてもNOI利回りが低い場合があります。表面利回りに惑わされず、NOI(営業純利益)利回りを正しく把握、推測することが重要です。

(2) 返済倍数(借入金償還余裕率)(DCR)

不動産投資のリスクを計る物差しとして、収入と返済のバランスを見る指標に「返済倍数」があります。「借入金償還余裕率」ともいいます。「返済倍数」は次の式で表されます。

返済倍数(DCR)

営業純利益(NOI)÷年間借入金返済額(ADS)

物件Aの場合は、営業純利益(NOI)が700万円で年間借入金返済額(ADS)が400万円なので、

返済倍数(借入金償還余裕率)

700万円÷400万円=1.75です。

借入金返済額を1とした場合、その1.75倍の返済原資があることを表します。

この数値は大きければ大きいほど安全な投資といえます。一般的に、住居系の場合は1.5~1.7は欲しいところです。

この数値が下がる要因としては次の場合が考えられます。

➀ 賃料収入が下がる(賃料そのものが下がる、入居率が下がり賃料収入が下がる)。

② 金利が上昇して借入金返済額が増える。

③ 運営経費が増加する。

将来のことは不確定な部分がありますが、➀、②、③が同時にくることがあるかもしれません。投資する時にはこの返済倍数(借入金償還余裕率)を計算し、投資の安全性をを慎重に検討しましょう。

(3) 自己資金利回り(CCR)

投資した自己資金がどれくらいの利回りでまわっているか表す自己資金利回りは「投資した自己資金」に対して「いくらのキャッシュフロー」が生まれたかを表します。次の式で表されます。

自己資金利回り(CCR)

=キャッシュフロー÷自己資金

物件Aの場合は、キャッシュフローは営業純利益(NOI)が700万円、年間借入金返済額(ADS)が400万円なので、(700万円-400万円) =300万円です。

自己資金1,000万円出していますから

自己資金利回り(CCR)

=300万円÷1,000万円

30%

(4) レバレッジ効果

物件ANOI利回り(全額自己資金で購入した場合)は700万円÷1億円=7%(自己資金利回り)ですが、

ローン(9,000万円)を組むことによって、出した自己資金1,000万円の自己資金利回りは30%に跳ね上がりました。

これを「レバレッジがきいた」といいます。

物件Aを1億円全額自己資金で買うと700万円のキャッシュフローしか生み出されません。

しかし、仮に物件A(自己資金1,000円、借入金9,000万円)と同じような物件を10棟買って、9億円(9,000万円×10棟)のローンを組めば、1億円(1,000万円×10棟)の自己資金に対して3,000万円のキャシュフローが生まれます。

自己資金利回り30%です。

しかし、これは9億円という借入金をするリスクをとった結果生まれたものです。

(5) 自己資金回収(ペイバック)

「ペイバック」投資した自己資金が何年で回収できるかという指標です。

ペイバック

自己資金÷キャッシュフロー

物件Aに当てはめると、自己資金1,000万円、キャッシュフロー300万円なので

ペイバック

=1,000万円÷300万円

3.33年

投資した1,000万円が3.33年で回収できることを表しています。

【まとめ】

① NOI利回りは「物件の力」そのものを表しています。しかし、自己資金利回りは「自己資金の額」や借入金の「金利」「融資期間」によって変わるので、その人によって変わる利回りです。

② 自己資金利回りは分母の自己資金を少なくすればするほど、高利回りになります。そのため、この数字だけで投資判断するのでなく、「NOI利回りとセットで見なければいけない」投資指標といえます。

(6) 年間借入金返済(ADS)を決める3要素

年間借入金返済(ADS)を決める要素には次の3つがあります。

金利

返済期間

借入金額

この3要素と返済額との関係は

金利が上がると

→ 返済額は → 上がる

返済期間が長くなると

→ 返済額は → 下がる

借入金額が大きくなると

→ 返済額は → 上がる

そして、借入金返済額の内訳は「借入元本の返済」「支払い金利」です。

(7) 元利均等払いと元金均等払い

「年間借入金返済」の支払い方法には「元利均等払い」「元金均等払い」があります。

「元利均等払い」は元金と利息を含めた毎月の返済額が同じになるように返済する方法です。毎月の返済額が一定なので返済計画が立てやすく、一般的にはこの方法が採用されています。

「元金均等払い」は借入金額を支払い回数で割った金額を均等に返済していく方法です。毎月返済する元金は一定ですが、利息分は元金が徐々に減っていくので、その都度減っていきます。「元利均等払い」より利息として払う金額は少なく済み、毎月の支払い額も徐々に少なくなります。しかし、当初の毎月支払い額は大きくなります。

(8) ローン定数て何?

ローン定数とは借入金額に対する年間借入金返済額割合をいいます。

ローン定数(K%)

年間借入金返済額(ADS)÷借入金額(Loan)

事例Aの場合、借入金額9,000円、金利2%、融資期間30年で、年間返済額は約400万円なので

ローン定数は

400万円÷9,000万円

4.44% になります。

同じローン条件であれば、

1億円借りた場合

年間借入金返済額

=1億円×4.44%

444万円

5,000万円借りた場合

年間借入金返済額

=5,000万円×4.44%

=222万円

ローン定数

借りる側から見ると、資金の「調達コスト」という見方ができます。

貸す側から見れば「貸した資金の利回り」という見方ができます。

(9) キャッシュフロー利回りと返済倍数

キャッシュフロー利回りとは、「購入総コストに対してキャッシュフローがどれくらいあるか」その割合を表す指標です。

式で表すと次のようになります。

キャッシュフロー利回り

NOI利回り返済割合(K%×LTV)

返済割合(K%×LTV)  

年間返済額(ADS)÷購入総コスト

ローン定数(K%) ×LTV(融資比率) 

LTV(融資比率)

Loan÷Value

借入金額÷購入総コスト

事例Aの場合(総購入コスト1億円のうち、全額借り入れした場合、LTV=100%)、計算すると

キャッシュフロー利回り

NOI利回り返済割合(K%×LTV)

=700万円/1億円-444万円(4.44%×100%)/1億円

=256万円/1億円

2.56%

事例Aの場合(総購入コスト1億円のうち、9,000万円借り入れ1,000万円自己資金、LTV=90%)、計算すると

キャッシュフロー利回り

NOI利回り返済割合(K%×LTV)

=700万円/1億円-400万円(4.44%×90%)/1億円

=300万円/1億円

3.00%

自己資金10%(1,000万円)を入れたことにより、キャッシュフロー利回りは2.56% → 3.00%上昇しました。

キャッシュフロー利回りNOI利回り返済割合)で計算します。

それに対して、返済倍数は(NOI利回り÷返済割合)で計算します。

返済倍数をキャッシュフロー利回りと同じように分母を購入総コストで表すと次のようになります。

返済倍数

=NOI利回り÷返済割合

=NOI/購入総コスト÷年間返済額(ADS)/購入総コスト

=700万円/1億円÷400万円/1億円

=7%÷4%

1.75

どちらも営業純利益(NOI)年間借入金返済額(ADS)バランスを見る指標です。

【まとめ】

① キャッシュフロー利回りは「購入総コストに対してキャッシュフローがどれくらいあるか」その割合を表し、新築の賃貸アパートの場合、最低2%以上、リニューアルの場合4%以上欲しいところです。

② キャッシュフロー利回りは(NOI利回り返済割合)で計算します。それに対して、返済倍数は(NOI利回り÷返済割合)で計算します。どちらも営業純利益(NOI)年間借入金返済額(ADS)バランスを見る指標です。

各種不動産投資指標の検証

 投資指標である表面利回り 、NOI利回り、返済割合、CF利回り、CF、返済倍数、自己資金利回り のそれぞれの関係を融資比率ごとに一覧表にまとめました。

(1) 下記の事例Aの場合で、各種投資指標の関係を一覧表にまとめました。

(前提条件)

(1) 総コスト  1億円

(2) 金利    2%

(3) 30年返済 ローン定数4.44%

(4) NOI率  75%

(融資比率100% 自己資金0%の場合)

表面利回り(%)    6.51  7.70  8.88  10.06  11.84

NOI利回り(%)    4.88   5.77  6.66   7.55    8.88

返済割合(%)       4.44    4.44   4.44   4.44   4.44

CF利回り(%)    0.44   1.33   2.22   3.11   4.44

CF(万円)           44      133    222     311   444

返済倍数(DCR)   1.10   1.30   1.50   1.70   2.00

自己資金利回り     -      -       -      -      -

(融資比率90% 自己資金10%の場合)

表面利回り(%)   5.87   6.93   8.00   9.07  10.67

NOI利回り(%)   4.40   5.20   6.00   6.80   8.00

返済割合(%)    4.00  4.00   4.00   4.00   4.00

CF利回り(%) 0.40  1.20   2.00   2.80   4.00

CF(万円)         40    120     200    280    400

返済倍数(DCR)  1.10   1.30  1.50   1.70  2.00

自己資金利回り 4.00 12.00  20.00   28.0  40.00

(融資比率80% 自己資金20%の場合)

表面利回り(%) 5.20  6.15 7.10   8.04 9.46

NOI利回り(%) 3.90  4.61   5.32 6.03 7.10

返済割合(%)    3.55  3.55   3.55    3.55   3.55

CF利回り(%) 0.35  1.06   1.77   2.48   3.55

CF(万円)        35    106     177     248     355

返済倍数(DCR)  1.10  1.30 1.50    1.70    2.00

自己資金利回り 1.77  5.32   8.87   12.42  17.74

(融資比率70% 自己資金30%の場合)

表面利回り(%) 4.55 5.38 6.21   7.04   8.28

NOI利回り(%) 3.42    4.04   4.66   5.28   6.21

返済割合(%)    3.10    3.10   3.10   3.10    3.10

CF利回り(%) 0.31   0.93   1.55   2.17    3.10

CF(万円)         31      93   155    217     310

返済倍数(DCR)  1.10  1.30   1.50   1.70    2.00

自己資金利回り  1.03    3.10    5.17   7.24  10.35

(2) 返済倍数(DCR)が1.5になるためには

(融資比率  100% 自己資金  0%の場合)

表面利回り 8.8%

NOI利回り 8.88×0.75=6.66%

返済割合

ローン定数4.44%×融資比率100%=4.44%

キャッシュフロー利回り

NOI利回り6.66%-返済割合4.44%=2.22%

キャッシュフロー

1億円×キャッシュフロー利回り2.22%=222万円

返済倍数(DCR)

NOI利回り6.66%÷返済割合4.44%=1.5

(融資比率  70% 自己資金  30%の場合)

表面利回り 6.21%

NOI利回り 6.21×0.75=4.66%

返済割合ローン定数4.44%×融資比率70%=3.10%

キャッシュフロー利回り

NOI利回り4.66%-返済割合3.10%=1.55%

キャッシュフロー

1億円×キャッシュフロー利回り1.55%=155万円

返済倍数(DCR)

NOI利回り4.66%÷返済割合3.10%=1.5

自己資金利回り

キャッシュフロー155万円÷自己資金3,000万円=5.17%

【まとめ】

自己資金3,000万円、借入金7,000万円、総額1億円の投資をして、年間キャッシュフローが155万円ということは、良い投資とは言えません。

(3) 返済倍数(DCR)が1.7になるためには

(融資比率  100% 自己資金  0%の場合)

表面利回り 10.06%

NOI利回り 10.06×0.75=7.55%

返済割合ローン定数4.44%×融資比率100%=4.44%

キャッシュフロー利回り

NOI利回り7.55%-返済割合4.44%=3.11%

キャッシュフロー

1億円×キャッシュフロー利回り3.11%=311万円

返済倍数(DCR)

NOI利回り7.55%÷返済割合4.44%=1.7

【まとめ】

返済倍数が1.7以上あったほうが安心です。その場合、表面利回りは10%以上でないと1.7以上にはなりません。

(4)返済年数15年の場合

➀ 総コスト  1億円

② 金利    2%

15年返済 ローン定数7.72%

④ NOI率  75%

(融資比率100% 自己資金0%の場合)

表面利回り(%)11.33  13.38  15.44 17.50 20.59

NOI利回り(%)  8.49  10.04  11.58   13.13 15.44

返済割合(%)    7.72    7.72    7.72     7.72    7.72

CF利回り(%) 0.77    2.32    3.86     5.41    7.72

CF(万円)          77     232   386      541     772

返済倍数(DCR)  1.10  1.30    1.50    1.70     2.00

自己資金利回り      -       -       -       -         -

(融資比率90% 自己資金10%の場合)

表面利回り(%)10.19 12.06 13.90 15.75  18.53

NOI利回り(%)   7.64   9.03   10.42 11.81   13.90

返済割合(%)   6.95   6.95     6.95     6.95     6.95

CF利回り(%)  0.69   2.08     3.47     4.86     6.95

CF(万円)         69    208   347      486       695

返済倍数(DCR)  1.10 1.30    1.50     1.70     2.00

自己資金利回り 6.95  20.85  34.75   48.65   69.50

(融資比率80%  自己資金20%の場合)

表面利回り(%) 9.06  10.71  12.36  14.00  16.47

NOI利回り(%) 6.80   8.03    9.27 10.50  12.36

返済割合(%)  6.18    6.18    6.18    6.18    6.18

CF利回り(%) 0.62    1.85    3.09    4.32    6.18

CF(万円)        62     185   309     432     618

返済倍数(DCR) 1.10   1.30     1.50    1.70    2.00

自己資金利回り 3.09   9.27  15.44   21.62   30.89

(融資比率70%  自己資金30%の場合)

表面利回り(%)  7.93 9.37 10.81  12.25 14.41

NOI利回り(%)   5.95   7.03    8.11  9.19  10.81

返済割合(%)   5.41   5.41    5.41     5.41     5.41

CF利回り(%) 0.54   1.62    2.70     3.78     5.41

CF(万円)          54     162   270      378     541

返済倍数(DCR)  1.10  1.30    1.50     1.70    2.00

自己資金利回り  1.80    5.41    9.01   12.61   18.02

(5) 返済倍数(DCR)が1.7になるためには

(融資比率70%  自己資金30%の場合)

表面利回り 12.25%

NOI利回り 12.25×0.75=9.19%

返済割合

ローン定数7.72%×融資比率70%=5.40%

キャッシュフロー利回り

NOI利回り9.19%-返済割合5.40%=3.79%

キャッシュフロー

1億円×キャッシュフロー利回り3.79%=379万円

返済倍数(DCR)

NOI利回り9.19%÷返済割合5.40%=1.7

自己資金を30%出しても返済期間15年の場合、表面利回りは12.25%以上でないと返済倍数(DCR)は1.7になりません。

【まとめ】

① 返済倍数(DCR)は投資指標として、借入金返済破綻のリスクを端的に表しています。1.7以上あれば安心ですが、

②「物件の力」を表す「NOI利回り」、総投資額に対してどれくらいのキャッシュが残るか表す「キャッシュフロー利回り」、投資した自己資金に対する利回り「自己資金利回り」等、複数の投資指標で多面的に分析、検討することが重要です。

物件購入コストの計算の仕方

投資の安全マージンを計る物差しである「返済倍数(DCR)」を考慮しながら、1.新築等の場合の物件購入コストのを計算のしかた。2.リニューアルする場合のコストの計算のしかた。3.中古物件を購入する場合のコストの計算のしかた。について解説します。

(1).返済倍数(DCR)から計算する物件購入コスト

投資の安全マージンを計る物差しである「返済倍数(DCR)」から物件の購入コストを計算する方法です。

まず、

該当物件のNOIを調べる。または、査定する。

ローン条件(金利、返済年数からローン定数(K%)をだす、調べる

自己資金を出す割合(融資比率LTV)を決める

あるべき返済倍数(DCR)を設定する(1.5~1.7以上)

を決めます。

次の式に➀~④を当てはめます。

コスト = NOI ÷ (K% × LTV × DCR)

(例えば)

NOI640万円

ローン条件は

・金利2%

・返済期間30年

ローン定数4.44% 

・自己資金10%(融資比率LTV90%

返済倍数(DCR)1.6は欲しい場合の購入コストは

コスト = 640万円 ÷ (4.44% × 0.9 × 1.60)

= 640万円 ÷ (4.00%  × 1.60)

= 640万円 ÷ 6.41%

1億円 

1億円までかけてよい計算になます。

(2) リニューアルコストの計算のしかた

(事例B)

物件Bは築20年、8世帯、現在空室が3世帯、5万円で募集していますが建物設備が陳腐化し6ケ月以上空室が続いています。そのため、建物設備等を最近の入居者ニーズに合わせ、1世帯当たり150万円かけてリニューアルすることにしました。そして、リニューアル後は7万円で貸せる場合(ただし空室損失、運営コストを20%とします)の収支分析をしてみます。

リニューアル工事のNOI利回りの計算

リニューアル工事により賃料がアップした分(7万円-5万円=2万円)がリニューアル工事による収益アップ分になります。

NOI利回り

=(7万円-5万円)×3戸×80%×12ケ月/450万円

=57.6万円/450万円

12.8%

リニューアル工事の返済倍数(DCR)の計算

リニューアルNOI 

= (7万円-5万円)×3戸×80%×12ケ月

57.6万円

リニューアルコスト450万円を、

金利2%、15年ローンで借り入れた場合

年間返済額 = 月額返済額29,000円 × 12ケ月

= 34.8万円

返済倍数(DCR)  = 57.6万円 ÷ 34.8万円

          = 1.65

リニューアル工事のコストの計算のしかた

リニューアル工事の場合も新築の場合と同様の計算式で計算します。

事例Bで

 NOIが57.6万円

 ローン条件

金利2% 15年返済(ローン定数 7.72%)

 全額借入

 返済倍数(DCR)は1.5でよいとします。

コスト = リニューアルNOI ÷ (K% × LTV × DCR)

= 57.6万円 ÷ (7.72% × 100% × 1.50)

= 57.6万円 ÷ 11.58%

497万円

497万円までかけていい計算になります。

(3) 中古物件購入価格の計算のしかた

中古物件を購入する場合、購入後のリニューアルコストも考えなければなりません。中古物件を購入する場合は次の➀~⑤を検討して希望購入価格を見積もりましょう。

 どの程度のリニューアルをする必要があるか

 そのリニューアルをしたら、いくらで貸せるか(NOI)

 そのリニューアルをするのにいくらかかるか(リニューアルコスト)

④ 融資条件を調べる(ローン定数K%  融資比率LTV)

 希望する返済倍数(DCR)を設定する

次の式に②~⑤を当てはめます。

コスト = NOI ÷ (K% × LTV × DCR)

尚、総コスト = 不動産購入コスト + 購入後のリニューアルコストになります。

【まとめ】

今まで見てきた投資指標はいずれも単年度の指標です。 賃貸アパート経営は5年、10年と続くものです。20年、30年先は予測出来ませんが、「現状のまま何もしない」場合と「リニューアルした」場合の5年後、10年後を中期予想し投資分析する視点も重要です。

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