タバコを吸って賃貸アパートを退去した場合、賃借人は原状回復費用(退去費用)を負担するの?
賃貸アパート室内でタバコを吸った場合、退去の際、原状回復工事費の負担をめぐってトラブルになることがあります。タバコを吸った場合、賃借人の原状回復義務と費用負担額について解説します。
タバコを吸うと賃借人に「原状回復義務」があるの?
賃貸アパートの室内でタバコを吸うと、室内にタバコによる「ヤニ汚れ(黄ばみ)」、「におい」が残ります。また、床に「焦げ跡」を付けてしまう場合があります。タバコを吸った賃借人に原状回復義務があるのでしょうか。国土交通省の「原状回復ガイドライン」では「原状回復」を次のように定義しています。
賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、
「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」である。そして、これらの費用は「賃借人が負担すべき費用」である。
それに対して、「建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年劣化)及び、賃借人の通常の使用による生ずる損耗等(通常損耗)」については「賃貸人が負担すべき費用」であると定義しています。
タバコを吸ったことにより付着した室内の「ヤニ汚れ(黄ばみ)」、「におい」、「焦げ跡」は通常の使用(通常損耗)を超える使 用による損耗とみなされ、賃借人は原状回復義務があります。
参考情報
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)
(1) クロスの張り替えが必要になった場合、張り替え費用は1,500円/㎡~2000円/㎡かかります。
金額は、物件の広さにもよりますが、15万円~20万円位の原状回復費用(退去費用)がかかります。
(2) フローリング等床に「焦げ跡」を付けてしまった場合は、通常は焦げ跡を部分補修します。
その場合、一般的には15,000円~50,000円位かかります。
賃借人負担額計算例
タバコによる壁等の「ヤニ汚れ(黄ばみ)」、「におい」によりクロスの張り替え工事をした場合、かかった工事費全額を賃借人が負担しなければいけないのでしょうか。
国土交通省の「原状回復ガイドライン」では、このように賃借人に原状回復義務がある場合でも、入居期間中に経年変化・通常損耗が発生しており、経過年数(入居年数)を考慮し、経過年数(入居年数)が長いほど賃借人の負担割合(額)を減少させ決めています。
つまり、かかった原状回復費用(退去費用)のうち、入居していた間に消耗償却した分は貸主が負担し、未償却部分は借主が負担します。
賃借人負担額は次のように計算します。
①入居年数2年(24ケ月)の場合
☆毀損場所 壁クロス
☆耐用年数 6年(72ケ月)
☆原状回復費用(退去費用) 150,000円
☆賃借人負担額=原状回復費用(退去費用) × (耐用年数-入居年数)/耐用年数
=150,000円×48ケ月/72ケ月
=100,000円
☆賃貸人負担額=原状回復費用(退去費用) × 入居年数/耐用年数
=150,000円×24ケ月/72ケ月
=50,000円
②入居年数6年(72ケ月)の場合
☆毀損場所 壁クロス
☆耐用年数 6年(72ケ月)
☆原状回復費用(退去費用) 150,000円
☆賃借人負担額=原状回復費用(退去費用) × (耐用年数-入居年数)/耐用年数
=150,000円×0ケ月/72ケ月
=1円
☆賃貸人負担額=原状回復費用(退去費用) × 入居年数/耐用年数
=150,000円×72ケ月/72ケ月
=150,000円
※6年入居した場合、ガイドラインの考え方では、タバコを吸っても入居者負担は無しということになります。
③特約でタバコ(喫煙)に関する定めがある場合
「室内でタバコを吸った場合、借主は退去時に壁、天井、襖を張り替え、その費用を全額負担する。」等の特約がある場合は入居年数にかかわらず貼り替え費用は全額借主負担となります。
「契約自由」の原則により、このような「原状回復に関する賃借人に不利な内容の特約」を定めることが出来ます。しかし、ガイドラインでは次の要件を満たすことを要求しています。
(1) 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること。
(2) 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること。
(3) 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること。
以上3つの要件を満たしている特約であれば有効です。
まとめ
タバコによるクロス等の「ヤニ汚れ(黄ばみ)」、「におい」、床の「焦げ跡」は通常の使用を超える使用による損耗とみなされ、賃借人は原状回復義務があります。そして、入居期間に応じた原状回復費用(退去費用)を負担しなければいけません。
タバコを吸う方は、
①室内で吸う人は退去時にクロスの貼り替え費用等、原状回復費用(退去費用)を負担覚悟で吸う。
②原状回復費用(退去費用)を負担したくない場合は、ベランダ等屋外で吸うことをおすすめします。(ただし、くれぐれも近隣の入居者とトラブルにならないよう注意して)
③時代とともに喫煙者は減少し、賃貸物件ではタバコを喫煙しないという認識が一般化してきています。タバコは体に良いことは何もないので、この機会に禁煙することをおすすめします。
喫煙率の推移
厚生労働省 国民健康・栄養調査報告より
関連記事