フローリングに傷を付け賃貸アパートを退去した場合、賃借人の原状回復費用負担割合はどうなるの?

賃貸アパートを退去する時、床のフローリングに傷が付いたり、変色して、原状回復費用(退去費用)を請求される場合があります。その場合の費用負担に関する国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)の考え方について紹介します。

目次

原状回復義務の対象にならない場合となる場合

 ガイドラインでは賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等」については「賃借人が負担すべき費用」である。             それに対して、「建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年変化)及び、賃借人の通常の使用による生ずる損耗等(通常損耗)」については「賃貸人が負担すべき費用」であると定義しています。

フローリングに付いた傷や変色のうち、原状回復義務の対象になるものと対象にならないものがあります。

(1) 原状回復義務の対象にならない場合

① 家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡

(理由)

・家具保有数が多いという我が国の実状に鑑み、その設置は必然的なものであり設置したことだけによるへこみ、跡は通常の使用による損耗である。

② フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏り等で発生したもの)

(理由)

日照は通常の生活で避けられないものである。

構造上の欠陥は賃借人には責任はない(賃借人が通知義務を怠った場合を除く)

③ フローリングのはがれ

・フローリングのはがれには色々な理由が考えられますが、寿命によってはがれた場合は、経年劣化とみなされます。

入居時からあった傷・へこみ

(理由)

・賃借人が付けた傷、へこみではない。

(2) 原状回復義務の対象になる場合

① 引越作業で生じた引っ掻き傷

(理由)

賃借人の善管注意義務違反または過失に該当する場合が多い。

② フローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによる場合)

(理由)

賃借人の善管注意義務違反に該当する場合多い。

③ 落書き等故意による毀損

(理由)

故意、過失によるものは原状回復義務の対象。

④ 物を落とした時にできた傷・へこみ

(理由)

故意、過失によるものは原状回復義務の対象。

⑤ キャスター付きの椅子によってできた傷

(理由)

・キャスターによる傷は賃借人の善管注意義務違反になる。

⑥ 床に飲み物などをこぼしてできたシミや傷み

(理由)

・飲み物などを床にこぼしてそのままにしておいて出来たシミや傷みは賃借人の善管注意義務違反になる。

フローリングを部分補修した場合の費用負担

① 経過年数(入居年数)は考慮せず、部分補修にかかった費用全額を賃借人が負担する。

(理由)

・部分補修を行っても、フローリング全体の価値が高まったと評価できるものではない(つぎはぎの状態)。部分補修の費用全額を賃借人が負担しても賃貸人当該時点におけるフローリングの価値(経年変化や通常損耗による減少を考慮した価値)を超える利益を獲得することにはならない(部分補修の前後でフローリングの価値は同等)。そのため経過年数(入居年数)を考慮する必要はない。

フローリング全体を貼り替えた場合の費用負担

① 経過年数(入居年数)を考慮し当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような直線を想定し負担割合を算定する。

設備等の経過年数(入居年数)と賃借人負担割合

(理由)

・全体を貼り替えることによりフローリング全体の価値が復活するため、当該建物の耐用年数と経過年数(入居年数)を考慮した負担割合を算定する。

※ 建物の構造によって同じようにフローリングを貼り替えても適用される耐用年数が変わってきます。

(当該建物の耐用年数)

木造(住宅用)  22年

軽量鉄骨造(厚さ3mm~4mm)  27年

鉄骨鉄筋コンクリート、鉄筋コンクリート造(住宅用) 47年

重量鉄骨造、鉄骨造  34年

参考情報

減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表

《賃借人負担額計算例》

☆構  造   軽量鉄骨造(耐用年数27年)

☆入居年数   4年

☆原状回復費用 150,000円

☆賃借人負担割合 (耐用年数入居年数)/耐用年数

☆賃貸人負担割合 入居年数/耐用年数

【賃借人負担額】

= 原状回復費用 × 賃借人負担割合

= 150,000円 × (23年/27年)

=   127,778円

【賃貸人負担額】

= 原状回復費用 × 賃貸人負担割合

=   150,000円 × (4年/27年)

=   22,222円

フローリングに傷を付けてしまったら

フローリングに傷を付けてしまった場合、賃貸物件の場合入居者の判断で傷を修繕することは出来ません。どの方法でどの程度修繕するかは、貸主または管理会社が判断し行います。フローリングに傷を付けてしまった場合は、貸主または管理会社に相談しましょう。

フローリングに傷を付けないための対策

フローリングに傷やへこみが出来入居者に原状回復義務があると、6畳当たり10~15万円かかります。

フローリングに傷を付けない対策としては、下記の対策があります。

カーペットジュウタンを敷くのがおすすめです。下の階への遮音(防音)という点でもおすすめです。

②キャスター付きの椅子の下に「チェアマット」を敷く

③椅子や机の足にカバーを履かせる

④重い家具の下に敷板を入れる

⑤ソファーの下にラグを敷く

また、入居時に室内の傷や汚れを「入居時チェック表」でチェックしましょう。退去時の原状回復費用負担をめぐるトラブルを未然に防止しましょう。

まとめ

(1) 家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡、日照、建物構造欠陥による雨漏り等で発生したフローリングの色落ち、入居時からあった傷、へこみは原状回復義務の対象にはなりません

(2) 賃借人の善管注意義務違反により発生したフローリングの傷原状回復義務の対象になります

(3) フローリングを部分補修した場合は経過年数(入居年数)は考慮せず、部分補修にかかった費用全額を賃借人が負担します。

(4) フローリング全体を貼り替えた場合は経過年数(入居年数)を考慮し当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような直線を想定し負担割合を算定します。

(5) 建物の構造によって、同じようにフローリングを貼り替えても適用される耐用年数が変わってきます。

(6) カーペットやジュウタンを敷く等して、フローリングに傷を付けないようにしましょう。

(7) 入居時に室内の傷や汚れを「入居時チェック表」でチェックし、退去時の原状回復費用負担をめぐるトラブルを未然に防止しましょう。

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