民法(債権法)改正で、賃貸借契約の何がどう変わったの?

改正された民法の債権法(契約等に関する部分)は平成29年5月26日に成立し、令和2年4月1日から施行されます。この債権法は制定以来約120年ぶりの大改正で、賃貸借契約に関するルールが大きく見直されました。賃貸借契約の何がどう変わったのか見ていきたいと思います。

目次

賃貸借契約により生ずる「債務の保証に関するルール」の見直し

家賃の不払いなどに備えて、賃借人に保証人(個人)を求める場合、改正前民法では例えば、賃借人の落ち度で貸家が消失した際、保証人に予想外の巨額な損害賠償請求がされることがありました。改正民法では、以下のような保証人保護の規定が定められました。

個人が保証人になる根保証契約については、保証人が支払いの責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ保証契約は無効となりました。

※ 根保証契約とは、将来発生する不特定の債務について保証する契約をいいます。不動産の賃貸借契約における「賃借人の一切の債務の保証」がこれに当たります。根保証契約を締結して保証人になる場合、主債務の金額が分からないため、将来、保証人が想定外の債務を負うことになりかねません。

主債務者の「死亡」または保証人の「死亡」、「破産」等があった場合、個人根保証契約における主債務の元本は確定します。その後発生する主債務は保証の対象外となります。

「賃借物の修繕に関する要件」の見直し

  借りている建物が雨漏れするなど修繕が必要な場合、改正前民法ではどのような場合に賃借人が自分で修繕することができるのか定めた規定がありません。改正民法では、以下の場合には賃借人が修繕できることが明確になりました。

賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知したか、または賃貸人がその旨を知ったのに賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしない時

急迫の事情がある時

「賃貸不動産が譲渡された場合のルール」の明確化

建物の賃貸借契約中に建物の所有者が変わった場合、誰が所有者になり、新しい所有者は賃料を請求できるのか改正前民法では規定がありませんでした。そのため、改正民法では以下の規定が設けられました。

賃貸借の対抗要件を備えていた場合に、賃借物である不動産が譲渡された時は賃貸人としての地位は原則として不動産の譲受人(新たな所有者)に移転する。

不動産の譲受人(新たな所有者)が賃借人に対して賃料を請求するためには、賃借物である不動産の「所有権移転登記」が必要。

「賃借人の原状回復義務及び収去義務等」の明確化

賃貸借契約が終了した場合、賃借人は賃貸人に賃借物件を原状に戻して賃貸人に返還しなければいけないと解されています。しかし、改正前民法では原状回復の範囲について明文化された規定はありませんでした。そのため、判例の積み重ねによって法的な解決が図られてきました。改正民法では、これまでの判例の考え方にもとづき、原状回復義務の範囲等について下記のように明文化されました。

賃借人は賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負うこととし、しかし、「通常損耗」(通常の使用によって生じた損耗)及び「経年変化」については原状回復義務を負わない。

通常損耗・経年変化に当たる例当たらない例

(当たる例)

・家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡

・テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)

・地震で破損したガラス

・鍵の取り替え(破損、鍵紛失のない場合)

・壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替が不要な程度のもの)

(当たらない例)

・引っ越し作業で生じた引っかきキズ

・日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備等の既存

・タバコのヤニ、臭い

・落書き等故意による毀損

・飼育ペットによる柱等のキズ、臭い

・壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替が必要な程度のもの)

※ 貸主と借主が合意すれば、「通常損耗や経年変化についても借主が原状回復義務を負う」という「補修特約」を設けることは認められています。

「敷金に関するルール」の明確化

敷金とは賃貸借に基づいて賃借人が負うことになる金銭債務を担保するため、賃借人が賃貸人に交付する金銭です。しかし、改正前民法には、明文規定がありませんでした。改正民法では以下のように明文化されます。

敷金とは「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対して生ずる金銭の給付を目的する債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」

賃貸借契約終了後、貸主は敷金を返還しなければいけませんが、以下の費用については差し引くことが出来ます。

・借主の未払い賃料

・損害賠償金

・原状回復費用(補修特約の有無、内容で金額が変わります)

新ルールはいつから適用されるの?

賃貸借や保証などの契約は、原則として施行日より前に締結された契約改正前民法が適用されます。施行日(令和2年4月1日)後に締結された契約は改正民法が適用されます。

施行日後に当事者が合意によって賃貸借契約や保証契約を更新(合意更新)した場合は、改正民法が適用されます。

施行日後に当事者が合意によって賃貸借契約を更新し、保証契約は合意更新しなかった場合は、賃貸借契約は改正民法が適用され、保証契約は改正前民法が適用されます。

まとめ

 施行日(令和2年4月1日)以降の新規契約、更新は下記のとおり行いましょう。

① 「新規賃貸借契約」の場合極度額等が表示されている民法改正に対応した改定版契約書で契約し ましょう。

国土交通省

改訂版 賃貸住宅標準契約書(連帯保証人型)

改訂版 賃貸住宅標準契約書(家賃債務保証業者型)

賃貸借契約と保証契約を合意更新」(貸主、借主、保証人3者で契約書を作成し更新)の場合は極度額等が表示されている民法改正に対応した改定版契約書で更新しましょう。

賃貸借契約は合意更新」し、保証契約は「合意更新しない」場合は、極度額等が表示されている民法改正に対応した改定版契約書を使用し、特約欄に「本賃貸借契約に係る甲と丙との間の連帯保証契約は、○年○月○日に締結され、その時点から継続していることから、第21条第2項の規定(全宅連契約書の場合)にかかわらず、その内容は従前の契約書にもとづくものとする。」と記載し、更新しましょう。

法定更新」の場合は賃貸借契約、保証契約とも改正前民法が適用されます

参照情報

賃貸借契約に関するルールの見直し(法務省HP)

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