民法(相続法)改正で、相続の何がどう変わったの?

改正された民法の相続法は平成30年7月6日に成立し、「自筆証書遺言の方式の緩和」については、平成31年1月13日からすでに施行されています。令和元年7月1日からは「遺産分割における税法と民法の齟齬の解消」「遺産分割前の預貯金の仮払い制度」「遺留分制度の見直し」「相続人以外の親族の貢献や寄与に応じた金銭の請求を認める制度」等が施行されました。これらの内容について見ていきたいと思います。

目次

配偶者居住権の創設

《改正前》

遺産を妻子で法定相続分1/2づつ分割して相続し、遺産のうち自宅が多くを占め、妻が自宅を相続する場合、住む家は確保できたけれど老後の生活資金が不足する場合があります。また、自宅の価値が遺産の過半を占めるケースでは、「子の相続分を捻出するために、家を売って現金化しなければいけない」場合もあります。

《改正後》

被相続人の配偶者の生活を安定させるため、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた場合、遺産分割または遺贈により、その居住建物の全部について終身または一定期間、無償で使用及び収益できる権利「配偶者居住権」が創設されました。

「配偶者居住権」は建物についての権利を「負担付きの所有権」「配偶者居住権」に分け、遺産分割の際などに配偶者が「配偶者居住権」を取得し、配偶者以外の相続人が「負担付きの所有権」を取得できるようにするものです。配偶者はこれまで住んでいた自宅に住み続けながら、預貯金などの他の財産も改正前より多く取得できるようになりました。配偶者の相続後の生活の安定を図ることができます。

配偶者に贈与された自宅は遺産分割の対象から除外

税法では、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産または、居住用不動産の購入資金の贈与が行われた場合、贈与税の基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除できる「贈与税の配偶者控除の特例」があります。この特例を使った場合、居住用財産の贈与は贈与税の申告を行ったうえで、被相続人の財産から切り離されます。

《改正前》

ところが、改正前民法では税制上の特例を使って生前贈与された不動産であっても配偶者の「特別受益」とされ、被相続人(亡くなった配偶者)から遺産の「先渡し」を受けたものとして考えます。贈与された不動産の価格が遺産に加算(餅戻し)されて遺産総額が算出されるため、遺産額について「税法」と「改正前民法」との間で食い違いが生じていました。

《改正後》

改正法では配偶者の別段の意思表示がなければ、「持戻し免除の意思表示」があったものと推定する規定が設けられました。これにより、配偶者間の居住用不動産の贈与については、当該不動産を遺産から除外して遺産総額を算出し、各相続人の相続分を計算することになります。自宅を持戻ししないことで、残された配偶者は住居を確保したうえで今後の生活資金も受け取ることができます。また、税法との齟齬も解消されます。

遺産分割前の預貯金の仮払い制度の創設

《改正前》

最高裁大法廷決定(平成28年12月19日)の判例により、生活費や葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などがあっても遺産分割が終了するまでは、被相続人の預金の払い戻しが出来ませんでした。

《改正後》

改正法では、共同相続人の資金需要に迅速に対応するために遺産分割前においても、預貯金の一定割合(上限あり)については家庭裁判所の判断を経なくても、金融機関の窓口で預金の払い戻しが出来るようになりました。 

長男の妻等の貢献に報いる特別寄与制度の創設

《改正前》

改正前民法では、相続人の配偶者(長男の妻)等が無償で被相続人の療養看護・介護をしても相続人でないため相続財産を取得することは出来ませんでした。一方、被相続人の長女や次男などは療養看護・介護を全くしていなくても、相続人として相続財産を取得できます。そのため、長男の妻との不公平が指摘されていました。

《改正後》

改正法では、このような問題を法的に解決手段として相続人以外の親族貢献や寄与に応じ、被相続人の長女や次男などに対して金銭請求(特別寄与料)が出来るようになりました。

遺留分減殺請求権の金銭債権化(遺留分侵害額請求権の創設)

遺留分とは遺言の内容にかかわらず、配偶者や直系卑属(子、孫、ひ孫など)が取得できる最低限の相続分のことをいいます。例えば、相続人のうちの1人に「遺産の全部を相続させる」という遺言があっても他の相続人は遺留分を請求できます。

《改正前》

改正前民法では遺留分減殺請求があった場合、原則としてその贈与・遺贈を受けた財産を渡すことになっています。対象となる財産が不動産の場合は共有状態になり事業承継に支障をきたすことがありました。このような場合、価格賠償(相当額での金銭支払い)によって解決することが通例でした。しかし、これは支払う側が金銭で支払うことを選択できるにすぎず、遺留分を請求する側は金銭で支払うことを請求出来ませんでした。

《改正後》

改正法では遺留分権利者の請求権を「遺留分侵害額請求権」という金銭請求権に変更し、遺留分を請求する側が金銭で支払うことを請求することが出来るようになりました。

自筆証書遺言に添付する財産目録の作成がパソコンで可能に

《改正前》

自筆証書遺言は添付する目録も含め、全文を自書して作成しなければいけませんでした。

《改正後》

その負担を軽減するため、遺言書に添付する相続財産の目録についてはパソコンで作成した目録や、通帳のコピーなど、自書によらない書面を添付して自筆証書遺言を作成できるようになりました。

法務局で自筆証書による遺言書の保管が可能に

《改正前》

自筆証書による遺言書は自宅で保管されることが多く、せっかく作成しても紛失したり捨てられてしまったり、書き換えられたりするおそれがあるなど問題がありました。

《改正後》

こうした問題によって相続をめぐる紛争が生じるのを防止し、自筆証書遺言をより利用しやすくするため、法務局で自筆証書による遺言書を保管する制度が創設されました。

相続税のことを詳しく知りたい方は こちらをご覧ください。

「あなたにも関係がある!?知っておきたい「相続税」」

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